切出しナイフが、鳩尾のところに深く突刺さったが、すこしも痛くない。

自分の死体を鞄に詰めて持ち歩く男の話。
びっしりついた茄子の実を、悉く穴に埋めてしまう女の話。
得体の知れぬものを体の中に住みつかせた哀しく無気味な登場人物たち。その日常にひそむ不安・倦怠・死……
「百メートルの樹木」「三人の警官」ほか初刊七篇を含め純度を高めて再編成する『鞄の中身』短篇十九。
読売文学賞受賞。

講談社文芸文庫『鞄の中身』初版

吉行淳之介の『鞄の中身』は短篇19作品が収められた短編集だ。300ページにも満たない薄い本なので、収録作品も短めのものが多い。特に「蠅」などは4ページしかない。

あらすじには「不安・倦怠・死」とあるが、個人的な印象としては「幻想・怪奇」のイメージ。「鞄の中身」は夢の話であることがあらかじめ断られ不条理なストーリーが展開されるし、「蠅」はグロテスクな怪奇ものだ。

日常の風景を舞台に背景を整えながら、一部に不気味な題材を用いての表現はいかにも文学的な小説だなと思わせられる。

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