弟のクイントゥス、昔の記憶をしばしば甦らせ、あれこれ思いを巡らせるにつけ、わが国家が繁栄のきわみを迎える中、自らは名誉ある公職につき、しかも栄えある功績をあげて華々しく活躍しながら、公務にあっては危険につきまとわれることもなく、私の閑暇にあっては威厳を失うこともない、そのような人生の道程を辿ることのできた昔の人々はつくづく幸福であったとわたしには思われる。

ローマ最高の弁論家キケロー(前106‐前43)が、既存の弁論術を批判・検討し、実践弁論の復権、哲学と弁論の再結合を説く。〈人間的教養〉の勧めである本書は、ヨーロッパ的精神の一大指導理念たる〈ヒューマニズム〉の形成にも大きな影響を与えた。自らの理念に忠実に生き、それに殉じた一つの偉大な精神の金字塔。

キケロ―『弁論家について 上』岩波文庫より

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